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奈良川源流域

モニタリングサイト1000里地調査

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環境省が推進する自然環境の保全を目的とした生態系調査「モニタリングサイト1000里地調査」において、奈良川源流域は里地調査一般サイトに認定されています。奈良川源流域を守る会では、環境省からの委託を受け、植物、鳥類などの生態系の調査をしています。

モニタリングサイト1000里地調査は、2013年度より第3期が始まりました。 奈良川源流域は第3期においても一般サイトとして引き続き登録されましたので、さらに5年間、継続して調査を実施します。(右:第2期の感謝状・クリックで拡大)

奈良川源流域とモニタリングサイト1000

鎮目 博

奈良川源流域を守る会は、2008年(平成20年)9月より5年もの間、モニタリングサイト1000里地調査(以下「モニ1000」)を実施してきました。といっても、「モニ1000」は一般にはなじみのうすい言葉だと思います。「調査中」というグリーンの腕章をつけ、双眼鏡やルーペを持ち、画板の記録用紙に何やら書きつらねている老若男女のグループを、玉川学園の周辺や奈良上のはらっぱ広場、田んぼのあたりで見たことがありませんか?

あれが、「モニ1000」の調査活動なのです。単なる自然観察のグループに見えるでしょうが、実は歴史的経緯と地理的な広さを持つ大変に奥深いボランティア活動なのです。

では、モニ1000をわかりやすく解説し、当会の5年間の調査の成果をご案内いたしましょう。

モニ1000は正しくは、「重要生態系監視地域モニタリング推進事業」といいます。よけいになじみがなくなるような名前ですが、これは「事業」なのです。どこが行っている事業かといえば、それは日本国です。法律に基づく「生物多様性国家戦略」に従って環境省が行っている国家事業なのです。従って、予算も付き、つまり税金も投入されているのです。では、「生物多様性国家戦略」とは何か。まず、この戦略が定められた経緯をみてみましょう。

生物多様性条約

自然環境には国境がなく、ある特定の地域や国だけの取組みでだけでは、地球環境を守ることができません。環境問題には大きく分けて二つあります。一つは、地球温暖化などの気候変動に関する問題。もう一つは、生きものの種が減少している問題。すべての生きものは、利用したり、されたり、助けたり、助けられたり、食べたり、食べられたりしてバランスが図られ、つまり、生態系が守られる中で種は存続し、地球に生物が誕生して40億年、今や生物は3,000万種いると推定されています。それが、生物多様性の権威ノーマン・マイヤーズ氏によると、1900年から1975年の間に毎年絶滅する種が1種類だったにもかかわらず、1975年から2000年の間には毎年4万種が絶滅しているとのことです。これは、極めて異常な事態です。人間も生きものであり、多くの種が滅びていく中で、なんの対策も立てないで、人間という種だけは滅びないという保証はどこにもありません。この生物多様性が脅かされている問題を何とか解決しようと、国連が1992年の地球サミットで採択したのが「生物多様性条約」です。その目的は、(1) 生物多様性の保全、(2) 生物多様性の構成要素の持続可能な利用、(3) 遺伝資源の利用から生ずる利益の公正かつ衡平な配分で、アメリカを除き、192の国とEUが締結しました。日本もこの条約に締結し、2010年には第10回締約国会議(COP10)を名古屋で開催するにいたり、生物多様性保全に本気に取り組む姿勢を明確にしました。

生物多様性国家戦略

この条約の第6条では、「締約国は、生物の多様性の保全及び持続可能な利用を目的とする国家的な戦略若しくは計画を作成し、又は当該目的のため、既存の戦略若しくは計画を調整し、特にこの条約に規定する措置で当該締約国に関連するものを考慮したものとなるようにすることを行う」と定めています。日本はこの規定に従って1995年に「生物多様性国家戦略」を策定しました。その後、何度かの見直しが行われ、2008年に成立した「生物多様性基本法」に基づく「生物多様性国家戦略2012-2020」が2013年に閣議決定されています。

「生物多様性国家戦略」が、危機として捉えているのは次の3つです。

そして、この危機克服のために次の5つの戦略を打ち出しています。

  1. 生物多様性を社会に浸透させる
  2. 地域における人と自然の関係を見直し・再構築する
  3. 森・里・川・海のつながりを確保する
  4. 地球規模の視野を持って行動する
  5. 科学的基盤を強化し、政策に結びつける

モニタリングサイト1000

モニ1000は、2002年の「第二次生物多様性国家戦略」の中の「自然環境の劣化を早期に把握し、要因を特定するなど、戦略的な保全施策の推進に資するより質の高いデータを継続的に収集するため、地域の専門家や NPO 等のネットワークを活用したデータ収集の仕組みを構築し、全国 1000 箇所程度の定点(モニタリングサイト)を国が設定して、動植物や生息・生育環境の長期的なモニタリングを展開すること」という戦略に基づき、2003年(平成15年)から国の事業として開始されました。

以上、モニ1000は、環境問題に対する世界的な課題解決の過程で誕生した事業であることがわかります。 さて、モニ1000の事業目的は、モニタリング活動を通して、生物種の減少や生態系の異変をいち早く捉え、迅速かつ適切な生態系及び生物多様性の保全施策につなげることです。そのために、日本の様々な生態系にそくして、高山帯、森林・草原、里地、湖沼・湿原、砂浜、磯、干潟、アマモ場、藻場、サンゴ礁、小島嶼を対象として、国内に1000箇所の調査地点サイトを設置し(2012年8月時点で1020箇所)、5年間を1サイクルとし、100年間にわたりその動態をモニタリングしようというもので、地理的・時間的な規模、また集積されるデータ量においても壮大なものです。

モニタリングサイト1000里地調査

この内、里地に関しては、日本自然保護協会が事務局なり、日本全国の里地・里山を対象としてコアサイトと一般サイトに分けてモニタリングを実施しています。コアサイトは、生態系の変化を総合的に把握するために全国各地域の代表的な里地・里山に18箇所の調査地点を設置し、2005年から調査を開始しています。これに対して一般サイトは、全国のより多数の地域を対象として、全国レベルでの生物多様性の変化を捉える市民によるボランティア調査で、2008年から調査を開始しています。奈良川源流域を含め175箇所のサイトが環境省により認定され、2011年では1,371名が調査にたずさわりました。なお、横浜市青葉区では認定されたサイトは2箇所しかなく、青葉区民にとっても奈良川源流域は貴重な自然環境のある地域であり、その調査データは貴重な文化資産であることがわかります。

では、一般サイトでは何を調査するのか。調査項目は、植物相、鳥類、水環境、中・大型哺乳類、カヤネズミ、カエル類、チョウ類、ホタル類、それに人的インパクトの9項目があります。その内、奈良川源流域は、植物相(毎月1回)、鳥類(繁殖期、越冬期各6回)、ホタル類(成虫の発生からピークまで毎週1回)の調査を、冒頭に記したように2008年から実施し、すでに5年が経過しています。現在は、100年調査を目指して、新たな5年目に突入したところです。

それでは、植物相、鳥類、ホタル類の各担当者による調査結果報告をご覧ください。

その前に、当会がモニ1000活動を開始した理由を述べましょう。奈良川源流域は開発が相次ぎ、また種々の開発計画があったことから、わたしたちは、その自然環境、生物多様性が脅かされることに危機感を抱きました。世界や国が危機感を抱いたのと同じ理由です。そこで、奈良川源流域は守るべき里地地域であることを立証するために、調査活動、観察活動を強化し、その調査結果が、環境省から守るに値する里地の自然環境であるとの認定を得、モニ1000活動に踏みきりました。その後の本格的なモニ1000調査活動の結果、やはり、奈良川源流域の自然環境は素晴らしく、生物多様性の保全状況はおおむね良好ですが、新たな危惧も生じています。

なお、調査結果を公表するのは、奈良川源流域の素晴らしさ、生物多様性の重要性を知っていただくとともに、横浜市をはじめとする自治体、研究者、学校、NPO団体等に調査データを環境保全施策・活動や研究のために活用していただきたいからです。また、モニ1000活動は、100年活動であり、新たな世代の参画が不可欠ですので、調査結果等を見て、ご賛同いただける方は、積極的に調査活動に参加してください。

世界的な生物多様性保全の危機がモニ1000の地域調査につながったように、各地域の調査活動、保全活動が日本全体の生物多様性を守り、世界全体の生物多様性保全につながると信じていますので、宜しくお願いいたします。

なお、2013年9月にスウェーデンのストックホルムで「気候変動に関する政府間パネル」(IPCC)の第36回総会が開催され、気候変動・地球温暖化の主因は人間活動である可能性が極めて高いと結論しました。2014年3月にわが横浜市でIPCCの第38回総会が開催されます(日本での開催は初めて)。気候変動が引き起こした影響についての議論が行われ、生態系や生物多様性の問題にも言及するものと思われます。

これを機会に、生態系や生物多様性を守るわたしたちのモニ1000活動に、大いに関心をお寄せ下さい。

2013.10