1997年4月30日発行
「奈良川源流域を守る会」
nara@interlink.or.jp
谷戸に大島桜が咲く季節が巡ってきました。昨年三月の発会以来、植物や昆虫の観察会、バードウォッチング等で谷戸に親しんできました。また、忙しい農業のスケジュールの中で、田んぼづくりの楽しみも味わってもらいました。一方、西谷戸はとうとう着工されてしまいました。
オギャーと言ってからこの方、私はこの地で育ち、暮らしを立ててきました。谷戸のこれ以上の改変がどんな自然破壊をもたらすか、恐ろしくまた悲しく思われます。
関東大震災の時、小学生だった私の叔母が学校帰りに激震に遭い、奈良上自治会館辺りで向かい側の現在小田急学園奈良の住宅になっている山の斜面が一瞬のうちに崩れ落ち、赤むけの断層ができたのを目撃しました。その上、小田急学園奈良住宅街は枝谷戸を埋めて造成してあり、谷戸をいじると大変危険です。経験上そう思っていましたが、先日、地質学の生越先生とお話しして、ますますその感を深くしました。
泉の水を集めた谷戸田は、そのままで自然の遊水池となっています。また地下にも水脈が走っていますので、それを大きな建築物で遮断してしまったときの地下水への影響、地盤への影響も懸念されます。
谷戸は人が住むところではありません。それは太古からの先祖たちの知恵なのです。私たちは、先祖が持っていた自然への畏れを忘れているのではないでしょうか。
私は谷戸の自然を守ることは、ホタルや鳥や植物たちを守るだけでなく、私たち人間を守ることになるのだと思っています。
奈良川源流域の保全を目的として生まれた当会では、会報や観察会、米作りなどの
活動を通じて貴重な自然を守ることを訴えてきました。
しかし今、「源流域を保全する」方針を掲げ条例まで制定した他ならぬ横浜市の手で、西谷戸全体がつぶされようとしています。すでに谷戸の入り口は土で埋められてしまいました。
現在、住民たちは横浜地裁に「工事差し止めの仮処分」を申請し、工事を差し止めて話し合いに入ることを求めています。また、この趣旨の署名が三三九一名分集まり、裁判所に提出されています。
もし西谷戸がつぶれたら、源流域の生態系はどうなってしまうのでしょうか。
そして障害者の方々と谷戸の緑地を耕して共生するといった夢も消え、住民の憩いの場もなくなってしまうのです。
地質学・生態学の立場から、四人の専門家の方々が意見書を裁判所に提出しています。これらは私たちに谷戸保全の大切さを再確認させるだけでなく、谷戸保全の意義について深く考えさせるものとなっています。残念ながら紙面の都合で要旨のみしか載せられませんが、ご一読ください。
当地には、この地域の自然を代表する二次的自然(人の管理のもとに成立する里山などの自然)が残されており、その生物多様性の最後の砦となっている。現在、わが国で緊急に保護が必要とされるレッドデータ種の多くが、二次的自然を構成する種であり、わが国の生物多様性の急激な喪失は、主要には二次的自然の喪失に起因することが明らかになっている。
また、長年の経験と高い見識を持った野川喜一氏とその指導のもとに活動している市民層も存在している。すなわち、二次的自然の自然条件と人的条件がそろっている当該地域は、横浜市の中でもとりわけ保全上の価値が高い地域であると思われる。
「市民層」=「奈良川源流域を守る会」です。責任の重さを感じます。私たちがこれからも積極的に保全活動をしていくことが大切なのです。
レッドデータ種とは、絶滅する恐れのある種のことです。ここで、県のレッドデータブックに掲載されている当地の動植物を、野川会長にリストアップしていただきました(表)。
|
奈良川源流域は現在奇跡的に残った生物多様性を豊かに保持する谷戸里山の代表的な存在といえるでしょう。谷戸の生態系は個々の要素ばかりではなく、全体を一体として保全することが重要です。西谷戸の開発は谷戸全体の破壊につながる恐れがあることを認識しておく必要がおおいにあるのです。
谷戸は地質学的に見て、地震や洪水等の災害を受けやすい劣悪な場所である。一方、谷戸は豊富な水資源に恵まれ、その斜面は緑の宝庫となり、谷底は湿地帯となって特有な生態系を形成している。谷戸は水田として利用すれば、遊水池としての機能を発揮し、災害を防止ないし軽減する役割を果たす。しかし人を定住させるような施設の建設地点として谷戸を選定することは絶対に許されるべきではない。施設に入所する人たちのための生命の安全確保の問題を最優先に考えるべきであるのに、横浜市などは、災害を被る危険性が最も大きいと想定される谷戸を建設地点として選定するという愚挙を犯した。
現在休耕田となっている西谷戸は、すでに失われた自然(生態系)を取り戻すことが可能な地域として他では殆ど見つけることができない程稀な場所で、この地域を自然保護以外の目的で改変することは、失われたものを取り戻すことができるという極めて大きな可能性を無に帰することになります。
先日、関係者のお計らいで、源流に蛍を見学させて頂きました。感激でした。
戦後のこと、復員して間もない父に連れられて螢に会いに行きました。お化けの出そうな暗闇でした。堤防の細い粗末な木橋の上で「ほほほたる来い あっちの水はにがいぞ こっちの水は甘いぞ」と、歌いました。
螢呼ぶ 声いとけなし 橋よりす (父の遺句)
この会には、俳句をなさる方が数名おられます。私は青田、青田風、青田波というこの美しい季語を実感したのは、実はこの谷戸でした。一陣の風が起こりますと、殊に七月波蹴り立てて谷戸を上り下りするその青田波。それはそれは美しく爽快で、しばし言葉を失うほどでした。今後もこの谷戸に想いを得ていくことでしょう。
ほうたるや 妊りしこと 娘の知らせ 桜子
よく眠る かひなの赤子(セキシ) 青田風 桜子
昆虫、特に蜂を専門に研究しておられる大学の先生を講師にお招きして行われた。
自治会館の周りで先ず、最初の花の咲いているところにいた「マルハナ蜂」や「ベッコウ蜂」を見ながら、蜂には「狩り蜂」「寄生蜂」「花蜂」等がいて、ベッコウ蜂の様な狩り蜂は、捕えた獲物を卵から孵化した幼虫が必要とする時期迄腐らさずに保存する能力を持っている事、又、その巣の形態の面白さや足長蜂の巣作りからヒントを得て、人間が紙を作る様になった話等を聞いた。白ツメ草の小さな群落では、補虫網で無作為に15回位掬ってみると、虫が50種類以上も入り、その種類の多さに驚いた。次に、ねずみもちの花の咲いている所では、日本蜜蜂と西洋蜜蜂の違いを見ながら、日本蜜蜂と、「天敵」スズメ蜂との(蜂の絶えられる限界温度差を利用した)攻防の話、大スズメ蜂の激しい活動のエネルギー源は、幼虫から貰う液で、乳酸を発生さす事なくエネルギーを出すので、その液がスポーツ飲料にも応用されているとの事、最後は農薬の撒かれている田と、会長の農薬が撒かれていない田で、無作為に補虫網を振って入った虫の種類や数による生態系のバランスを見て、その田んぼの健全度を知る話や、昆虫と人間との関係、又、人間が利用したいような不思議な能力に感嘆させられているうちに、あっという間に予定の時間を越えてしまった。
密度が濃く、深く掘り下げられた話を聞くことが出来、大変有意義な時間を過ごすことが出来ました。このような会を企画して頂いた皆様に深く感謝致します。次回の企画を楽しみにしています。
大人も子供もみんな薄曇りの夕空を見上げています。まん丸のお月様が東の空からあがるのを待っているのです。
一番星が瞬きます。二番星…?これは飛行する軍用機の明かりです。
虫の声を聞きに野道を歩きます。ヘッドライトをつけた自動車がたくさん通り抜けます。危なくてヒヤヒヤします。谷戸に避難します。
玉川大学の先生や学生さんが虫の説明をします。虫の音を聞き分けようと、耳のレベルをあげます。そこに子供達の嬌声!耳のレベルメーターは振り切れます。
子供達は夕闇に懐中電灯を振り回し、その明かりは、子供達を明滅し、妖精のように乱舞する。子供達は虫と一体です。
「となりのトトロ」の風景のように、この谷戸が甦る。皆が子供のことを思い、その気になれば。そうなればここは私達が子孫に自信を持って残せる宝物。私達の作る原風景。
子供達が雲間からキラキラ輝くお月様にあえたのは寝室の窓からでした。
「でたでた月が、まあるいまあるいまん丸い、盆のような月が」
子供達は、夢の中で歌います。
会長の指導でバードウォッチングです。青い宝石、カワセミに感激。本山池の水面をかすめて飛ぶカワセミの青緑が矢のように目を射ます。池のほとりの木の上には大きなアオサギがとまり、チョウゲンボウが悠然と空に舞うのも見られました。
同時にコサギが餓死している哀れな姿も目にしました。谷戸の異変でえさが激減したのでしょう。
松尾亜門君、カワセミの絵をありがとう。雛がたくさんかえるといいですね。
会の活動としては、これら観察会以外にも米作りや源流域の草刈りなどを行ってい
ます。みなさんご参加ください。
なお、三月二十九日の「植物観察とお花見の会」については次号で報告します。
谷戸田の米作りの一年を写真で振り返ってみましょう。会員の中島さんのご厚意で、稲の様子はしっかり写真に記録されています。
昨年の米作りの苦労は、まず六年間も休耕田だったところを借りたので、田おこしが他の田の三倍以上大変だったことです。
相手は大自然。米作りはいつも難しい大バクチです。去年は日照りでそれが豊作につながったので幸運でした。気候によっては同じにはいかないのです。
穂が出たときに、花かけ水といってたっぷり水を入れなくてはいけません。去年は水が足りず何回も川からポンプで汲み上げて入れました。追肥の量を変えたり、寒ければ水を深く張ったり加減していくのです。無農薬なのでモグラやザリガニがあぜに穴をあけてしまうのでその対策にも追われました。
今年は、田植えや稲刈りはもちろん、年間を通した米作りの実践を学んでほしいと思います。(野川会長談)
九月二十九日の午後、秋晴れの空の下で稲刈りが行われた。野川会長の説明を伺った後、早速開始。ズブッと、靴が泥にもぐる。長靴を履いてくるべきだったと、反省する。左手で稲の株をつかみ右手の鎌でゴシゴシ。すると、「左を押しながら右を引くといいよ。」と、ある方からのアドバイス。もう一度。スパッ!出来た!!
次は稲を束ねる作業。野川会長は、アッという間にクルクルと結ぶが、これもやってみると難しい。六株を一束にしてワラで結ぶのだが、切り口が不揃いになったり、ワラがゆるんだり……。
最後は、稲束を竿に掛ける作業。一束を七対三にして、交互に掛けていくと、風が吹いても一方に寄らないとのこと。あらゆる事に、長年の智恵が生かされていて、今日は感心することばかり。
あちこちに、イナゴやカマキリが右往左往している。こんなに沢山の虫たちを目にするのも、稲刈りも生まれて初めて。本当に貴重な体験をさせて頂き、有り難うございました。
「奈良川源流域は横浜市にわずかに残された生態系豊かな緑地です。ここの池や緑地を自然公園として保全・復元し、障害者と共に耕作する農業ゾーンとして、また環境教育のための自然観察ゾーンとして生かしてほしいと思います。そのために、環境調査を実施した上で開発計画を見直し、市民との対話機関を設置して、福祉と自然の両立を目指してください」との趣旨の陳情書を市議会議長に提出しました。しかし市議会の委員会では、私たちの陳情に対する市当局の説明を了承するという形で却下されてしまいました。
会長によれば、早くもコチドリが水の入った田に現れました。美しい飾り羽のあるシラサギが舞い降り、キジもつがいになって現れました。いよいよ鳥たちも春の繁殖のシーズンを迎えています。次のバードウォッチングが楽しみです。
去る三月二十七日、西谷戸にハーブガーデン「ナチュラパス」がオープンしました。オーナーの野川進さんは当会会員で、十年前北海道でラベンダーに魅せられて以来、ハーブを集め、今約二百種のハーブが植えられています。
五月を迎えてハーブガーデンは可憐な花でいっぱいになります。谷戸の散策の途中に、ハーブティとケーキで一休みするのも素敵です。
当会会員で「港北ニュータウン緑の会」の関秀二さんが、ゲンジボタルの幼虫、約四十匹を分けてくださいました。
今の奈良川源流域のホタルは全てヘイケボタルなのですが、ここはもともとはゲンジボタルも乱舞していたところです。
幼虫は会長宅の清水の池に放ちました。無事に成虫に育つことができるでしょうか。ゲンジボタルの孵化は早いので、六月にはもうホタルの舞が見られるかもしれません。ご期待ください。
思えば去年は、会長にすっかりお世話になった米作りでした。今年は会員が「自力で」作ることを目標にして田んぼ作業をしていきたいと思っています。すでに三月三十日、万能をふるって、会長のご長男のご指導のもとで田おこしをしました。詳しくは次号でご報告します。
谷戸を渡る心地よい風に吹かれて、田んぼの作業は最高のレクリエーションです。参加なさりたい方は事務局までご連絡ください。
四月十四日、工事差し止めの仮処分をお願いする三三九一名の署名が横浜地裁裁判長宛に提出され、その後も増え続けています。会としても、地域住民の声が届くよう期待しています。