1996年7月10日発行
「奈良川源流域を守る会」
nara@interlink.or.jp
毎年、七月になると、奈良川源流域の谷戸にはたくさんのヘイケボタルが出ます。
日照りのニュースが続き、梅雨入りした後もちっとも梅雨らしい雨に恵まれません。皆さんと楽しく田植えした会の田を毎朝見回り、あぜに穴をあけるザリガニやモグラを退治し、水を管理しながらも、異常渇水の今年、ホタルが出るかどうか、そればかりを気にしています。
先日奈良小の自然観察クラブの子供たちが谷戸にやってきたので、池や田にごっそりいるカワニナ(淡水産巻き貝)を見せて説明したのですが、一匹のホタルが成虫になるには二十匹のカワニナが必要です。そのカワニナはきれいな水の中でしか生きられません。
ホタルを子や孫の代まで守りたい一心で、何十年も汗水たらして無農薬で農業を続けているのです。
はかない自然の生命は、自然の生態系を守らなければ守ることはできません。
玉川学園の駅まで姉や妹を迎えに行くとき、夜道を照らすちょうちんがいらないほど、ホタルが乱舞していました。あの幻想的な夏の夜を取り戻すために、会の皆さんと協力して源流域全体の自然を守っていきたいと思っています。
(財)日本野鳥の会 常務理事
三月二十三日、桃の花咲くうららかな朝、西谷戸の奈良上自治会館にて、「奈良川源流域を守る会」の発会式が行われました。 来賓のごあいさつの中から、日本野鳥の会常務理事の市田則孝氏のお話の要旨をご紹介します。
私は、仕事の関係で、鳥を通じて「自然と人間の共存」を考えてきました。
自然保護については、もちろん環境庁もがんばっていて、尾瀬のような原生自然はかなり守られ、都市の緑化も進みました。
ところが気がついたら市街地の周辺の里山や谷戸に残されていた豊かな自然が危機に瀕していて、今、日本の自然保護の大きな課題になっています。ここのような田んぼと里山は全国的に見ても意外に残っていません。そのうえ、チョウゲンボウがたくさん空を舞っていて、たいそう驚きました。
私が二十五年前に「多摩川自然を守る会」を作ったとき、建設省に「河原に自然なんかあるのか」と言われましたが、今ではその建設省が先頭に立って河原の自然を守ることをやっています。皆さんが考えていることをもっともっと広げて日本中の流れが変わるようになったら素晴らしい、と思います。
自然保護では、横浜市は非常に先進的な自治体です。ちょうど十年前、金沢文庫に全国初の「自然観察の森」をつくることになり、私もその構想をたてるのに参加したのですが、市の担当の職員の方が大変よく勉強していらっしゃるので驚きました。構想を練るにあたっては、何度も議論をしました。ここもそうすれば良い解決策が得られるはずだし、得て欲しいと思っています。
新聞等ではとかく「人か自然か」「施設か自然か」と対立した形で取り上げられがちです。これは違うものさしを持ってきてけんかさせているようなもので、身長と体重とどちらが大きいかというようなものです。
「豊かな自然が重要だ」と最初から分かっていたら、市はこの谷戸を施設用地に選ばなかったでしょう。施設の場所を選ぶものさしとして「自然」がなかったのだと思います。もちろん施設はどこか適地に作らなければなりません。一方、ここの自然は守らなければなりません。両方やらなければならないのです。
会長は大変な自然保護の理解者です。そういう会長のもとで是非うまい解決策を考え、自然保護のすてきなモデル地区にしてほしいと思っています。
「奈良川源流域を守る会」が地主さんのご厚意でお借りした田んぼは、丸い形の田で、私の田の隣です。
三月はじめ、皆であぜ作り。種もみを五月の連休の、暦の上で「一粒万倍日」にまき、苗床で四十日、早苗がしっかり育ちました。田植えの前日、有志に苗取り指導。苗を二十本程とり、ワラで結んでいく作業です。
いよいよ六月十六日、田植えの日を迎えました。大勢が入ると足あとで苗が浮いてしまいますので、先着五家族十名程に限らせていただきました。
ポーンポーンと苗を放り、まっすぐ植えられるように縄を張り、横一列に並びました。子供たちは、はじめ「気持ち悪い」を連発していましたが、上達も早く、なかなか上出来の田んぼとなりました。
おみやげに稲を自宅で育てるよう一束づつさしあげました。
実りの秋を楽しみに、育ててみてください。
会の田植えは翌日、次のように、読売新聞に紹介されました。
谷戸には会長の好きな大島桜があります。気品ある純白で、大ぶりの花は実に見事でした。会長の解説で、谷戸の桜を楽しんだあと、玉川大学がお花見のための開放日なので大学の中も見せていただきました。学内には、百七十種に及ぶ桜があります。春の一日、おにぎりとビールでの花の宴にうっとりと酔いました。
会員の土屋有里さんと小川桜子さんが、俳句を寄せてくださいました。
奈良谷戸の 山羊遠鳴きぬ 花の宴
奈良谷戸の 路地に敷きつむ 花むしろ
花万朶(はなばんだ) 牛のにほひの 農学部
野川喜一会長にお聞きしたところ、桜の花が散り青葉の茂るこの頃は、ヤマシギ、カケス、キビタキ、ジョウビタキ、カシラダカなどの冬鳥は遠い北国へと旅立ち、群れていた留鳥は繁殖期を迎えてつがいとなり、林に隠れ巣作りをはじめるので姿が見えにくくなるとのことです。
かわりに会長の田には、二羽のカモとコチドリがやってきました。
チョウゲンボウは相変わらず狩りに精を出しています。
また、例年は滅多に見られないハヤブサが、今年は驚いたことに会長宅周辺に毎日のように姿を見せました。
春になってえさも豊富なせいでしょうか。チョウゲンボウが鳴きながらハヤブサを追って旋回していたり、ハヤブサが、本気で狩りをするのではなく、のんびりハトを追って空をぐるぐる回っていたりする姿が見られました。
会長も「鳥たちも春になって遊んでいるんだね」と驚いていました。
またカワウの約百五十羽の大群が、夕方、空を横切るのも見られたそうです。
チョウゲンボウが空を舞うところと、キジのつがいが体育館の近くを散歩しているのが見られ、みんな大喜びでした。子供たちも望遠鏡の使い方がだいぶうまくなったみたいです。
その他、次のような鳥たちに出会えました。キジバト、ホオジロ、ハクセキレイ、ツグミ、ウグイス、シジュウカラ、メジロ、ムクドリ、ヒヨドリ、コジュケイ、カルガモ。
今日は平成8年5月11日(土曜日)晴れ。「奈良川源流域を守る会」の5月期行事の一つである「座間谷戸山公園の見学会」に参加する。バードウォッチングも出来るそうだから行かなければソンソン。
場所は小田急線の座間駅から徒歩約15分の「県立座間谷戸山公園」で、入手した案内書には「アーバン・エコロジー・パーク ZAMA YATOYAMA 都市の中の自然生態観察公園」とも書いてある。所在地は座間市入谷3丁目。電話は0462-57-8388。
今日は暑くもなく、寒くもなく、まことに快適。さあ12時まで鳥サンに遊ばせてもらいましょう。まず男性の指導員が双眼鏡の扱い方を説明してくれる。
指導員諸氏の後について(ゾロゾロとワイワイと)歩く。「お静かに!」と声がかかる。野鳥観察小屋に入る。「皆さん、この小屋は何の為にあるのでしょうか」。「………」。「勿論、鳥を観察する為にあるのですが、その前に、鳥が警戒心を起こさないように人間の姿を隠す為にあるのです」。なるほどねえ。うまいことを言うねえ。ここで観察出来たのは、オナガとヒヨドリだけ。
「ツーツーピィー、ツーツーピィー」と鳴いているのはシジュウカラか。この鳥は我が家の庭にもよく来るからお馴染だ。同行の小さい男の子が「黒ネクタイの鳥だね。お母さん」なんて言っていたっけ。
枯れ木にキツツキの巣が見える。大小10箇位か。小さい方はコゲラの巣で、大きい方はアオゲラの巣だそうだ。何故こんなに沢山あるんだろう。お隣さんが邪魔になるんではないかな。コゲラがヒナに餌を与えていた。Luckyなり。キツツキの類は少し斜めになった枯れ木の幹の下を向いた面に巣穴を掘る習性があるが、これは雨水が入らないように考えているのだろうとか。また、自分が出入するのに必要以上な大きい穴は掘らないという。おやまあホントですか。賢いですねぇ。それからもう一つ感心すること。どうしてあんなにきれいに丸く空けられるんでしょうか。
「キョッキョッ」という鳴き声はアオゲラかアカゲラだと誰かが言っている。でも姿は見えない。
今日は大変愉しい時を得た。オテントウサマに感謝しよう。&コレニコリズまた鳥サンに会いに行こう。
(原文はA5版6ページの力作ですが、紙面の都合上六分の一程に割愛させていただきました。会の記録として大切に保存させていただきます。このほか、ゴイサギ、カルガモ、ホオジロ、スズメ、ハジブトガラス、ハシボソガラス、キジバトなどが見られました)
ことり橋から西へ拡がる谷戸。繁殖期の今を無心に飛び交う鳥たちが観察できました。ムクドリ、コスズメ、ツバメ、カルガモ、オオヨシキリなど…。日頃、何気なく見過ごしていた田の一角が、彼らにとっていかに貴重な場であるかが分かり、「鳥も自然も守るべきほどのものではない」という見方は理解しがたいものに思えます。人間も共に自然的存在であり、また自然があればこそ、人間本来の心が保てるはずです。わずかに残された自然を根こそぎ潰してはならないと思います。
体育館の高架に哲人の風情でみじろぎもしなかった一羽のチョウゲンボウのように、私達も日々の忙しさの手を一旦休めて、目をつむり、ただの五分間でよい、沈思黙考してみるならば、大切なものがみえてくるかもしれないなどと想像しています。庭に産んであったからと届けられたムクドリの卵は翡翠(ひすい)色でした。命を秘めたその小さな重みの記憶を私の掌はずっと持ちつづけるような気がします。
谷戸の景観と自然環境にひかれてこの地の住人となって、もう長い歳月が流れました。こどもの国の森と玉川学園の丘陵に挟まれて、ここ奈良の谷戸は多様な植物と、多くの生きものの命を育みながら、ここに住む人々の暮らしの基盤をなしております。
この谷戸が、いま枯死寸前にある奈良川の源流域であることを意識したのは、だいぶ後になってからのことでありました。奈良川が数知れない小さな生きものや、湿生植物などを養い、そして人々は谷戸の浅い窪地にこの川の水を張って、水稲の種を播き農作業を営んできたことも窺えます。かつてあったという奥まった棚田の風景は消えたものの、秀美な曲線の畦(あぜ)に囲まれた水田の姿は今も僅かに残り、今様に言えば「里山」の形態を形作っております。
朝、甲高いコジュケイの鳴声に驚き、夏の夕闇迫る頃谷戸の田は蛙の大合唱が始まり、また秋ともなれば草叢に集(すだ)く虫の音を、果してこの先いつまで聞くことができるものか、そんな漠然とした気持でカセットテープを手に、夜道を彷徨したことも思い出されます。さほど広くもない庭には実のなる雑木を配して野鳥と仲良しになり、あるときは窓越しのソヨゴの枝にメジロが巣を作り雛を育ててくれた、早朝暗闇で狸君との出会いもありました。ことり橋周辺の水田が休耕田となったせいか蛙も雀もめっきり少なくなってしまった、いま庭に来る野鳥の常連は、季節にもよるがヒヨドリ、雀、キジバト、ムクドリ、シジュウカラ、メジロといったところ、ここに住み始めた頃、ムカデやヘビ、トカゲなどにはよく驚かされたものですが、今ではかなり少なくなってしまいました。どんなに小さな命でも、この地球にいきるもの同志お互に傷つけ合うことなく友達でいたい。奈良川はそう囁いているように思われます。
去る三月二十三日に奈良川源流域を守る会が結成され、多くの志を同じくする人々が集まりましたが、この席上でこれまでただ一人この谷戸の風物と、生あるもの総てを愛し、守り育ててこられたこの会の代表野川喜一さんのプロフィルの紹介と、ご本人の貴重な体験話をうかがい深い感動を覚えました。
6月8日、夕暮れの東名高速を走り、大井松田ICを降りて約10分、「ほたるの里」がある開成町に着きました。実は、この町には昨年の今ごろ、親戚での梅もぎの帰路に偶然に立ち寄ったことがあります。田園に咲き乱れる見事なアジサイが有名だと聞いたからです。まさに、百花繚乱の美しさでした。そして、この日、ホタルが乱舞するという「ほたるの里」での観察会に参加させていただく。これも、何かの縁のような思いがしました。
7時より、青少年会館において「奈良川源流域を守る会」の発会式にも参加され、ご挨拶をいただいた「開成町ほたるの里づくり研究会」の井上氏のお話。ゲンジボタルの生態、生育条件、そのための環境保護という観点から、日頃聞けない貴重なお話を伺いました。
そして、いよいよホタルの観察に最適な時間となる7時半頃、雨がポツリポツリ……。
「どのくらいのホタルが現れてくれるのだろうか」そんな不安を抱きながら、県道を脇に入り小川が流れる住宅街を抜けると、最初は一匹、二匹、さらに奥へ進むと、信じられないほどの光の乱舞と出会いました。その数は、約三〇〇匹! 久しく見ていない乱舞光景を目のあたりにして、ただただ見とれるばかりでした。
一匹、二匹、水辺を明滅しながら飛び交うのも、風情があっていいものですが、これだけの数のホタルが飛び交うのは、なんとも圧倒的。5歳の次男は、先日の野鳥観察会以来なにかと双眼鏡で観察したがり、この夜も目のあたりに飛び交うホタルを追っていました。10歳の長男も、暗闇のなかに舞う光の群をじっと見つめながら何か思うところがあったらしく、後日、「地球を守ることがカブトガニを守ること」という国語で習った一文から、ホタルを守ることも同じであると理解したようです。主人は、人里離れた田園地帯を流れるひっそりとした小川を想像していたらしく、周辺に思った以上の住宅が建っていたのが意外な様子でした。
ホタルの幼虫が育つほどの清流を保つためには、井上さんをはじめとする研究会の方々の努力はもとより、周辺の農家の方や住民の方々のよほどの理解と協力があるのだろうと思いました。環境を守ろうという意識、この意識の差が地球環境に天国と地獄ほどの差を生むのだと、実感しました。
そして、たまにふれあう自然だからいいのではなく、身近な自然に感謝する日々でありたいと思うしだいです。
5月18日(土曜日) くもり。前日までの夏気分は、いったいどうしたというほどの肌寒い午後、植物学の専門の先生をお迎えしての自然観察会でした。木や草花に名前はいらぬ、ただ慈しめばよいと、木々に抱きついても彼らの名を訊ねたことのなかった今日までの人生が一変するような!有意義な時間を過ごしました。足下の草花ひとつひとつが、自然界でそれぞれの生を生きていること、改めて知りました。セイダカアワダチソウ、ご存じですか?土のある処なら場所を問わずにはびこる雑草です。お庭のある方なら、一度ならず憎らしい思いをしたことがあるのでは?実はこの草、根っこから毒を出し、他の植物を攻撃して縄張を確保してから、盛んに繁殖いたします。そして最後には、己の毒をもって自滅してしまう、という何とも深い業を持つ植物なのだそうです。そしてもうひとつ。キンモクセイは、沈丁花とともに、香りのよい木として愛されておりますが、香るのはオスの木だけって、ご存じでした?動物の世界も植物の世界も、オトコは皆美しい。お父さんたちにも、もっと頑張ってもらいたいものだ、とは私の勝手な感想…この他、数え切れないほどの草花について、数え切れないほどのお話を伺いました。ひとつひとつの植物が、それぞれの名を持ち、時にはしたたかに、時にはけなげに生きているのですね。
「奈良川源流域を守る会」の主旨にご賛同いただいた会員がすでに百九十名を超えました。
五月七日、会の主旨に添って『奈良川源流域の自然を保全することは、十年前の一九八六年「横浜市環境管理計画 環境プラン21」で「河川源流域については自然環境を保全してホタル等のすむ水辺を確保する。魚のすむきれいな川や池をとりもどすための諸施策を推進する」という施策を打ち出して以来、市の基本方針です。市はその方針を貫き、奈良川源流域を保全していただきたい』旨の要望書を提出いたしました。
会の活動は市の方針に沿ったものです。源流域の保全をめざして地道な保護活動を続けていきたいと思います。
源流域には、環境庁のレッドデータブック(絶滅の恐れのある野生生物)で、希少種として指定されているゼニタナゴが生息しています。
ゼニタナゴは、以前、本山池にたくさんいましたが、水質が悪化し、殆ど死んでしまいました。会長が心配のあまり、しょいかごで何杯も自分の池に運び、それ以来献身的に保護してきました。
県の水産試験所も協力して保護にあたってきましたが、ゼニタナゴが産卵するカラス貝が入手しにくく、増殖のネックになっていました。
この度、会員の山口さんが霞ヶ浦の北浦でカラス貝を取ってきて会長の池で放したところ、皆元気に生息しています。
「来年はたくさん稚魚をかえしてみせますよ。」と会長ははりきっています。
源流域に位置する玉川大学は、この度、学内の建物に十羽も営巣するチョウゲンボウを大学のマスコットに決めました。学内では今まで百三十五種もの鳥の生息が確認されていて、大学では森と池のある自然公園のような環境を大学の誇りとしています。
本山池は他ならぬ「奈良川源流域」の池です。大学の森に続く西谷戸はチョウゲンボウのえさ場になっています。池も谷戸も地域全体の宝として保全していきましょう。
六月十六日、田植えをした会の田んぼは、もちろん無農薬です。これから、一番草、二番草と、繁茂する雑草を取らなければなりません。草取りに参加してくださる方、事務局までご連絡ください。
三月はじめに、源流周辺の草刈りと川そうじを、会長の指導で一日がかりで行いましたが、夏草の生い茂る季節となりましたので、近日中に、二回目の草刈りと川そうじをしたいと思っています。参加してくださる方、事務局までご連絡ください。源流ハーブティが出る予定です。
西谷戸にお住まいの野川進さんがハーブ・ガーデンを開園します。今、お宅には、約二百種類のハーブがあり、オレガノやミント等、可憐なハーブの花でいっぱいです。近日オープンの予定で準備中です。ウサギやヤギもいます。ご期待ください。