カワセミだより

ゼニタナゴの里を目指して

ゼニタナゴの生息地を復元し、奈良川源流域を保全する活動・2年目の記録

ゼニタナゴ 雌

   当会がWWFジャパン((財)世界自然保護基金日本委員会)の支援を受けて取り組んできた「ゼニタナゴの生息地を復元し、奈良川源流域を保全する活動」も三年目となりました。

   これまでに、ゼニタナゴが産卵を終え、ドブガイ、ヨシノボリとともに元気に冬を乗り越えました。この一年の増殖実験の過程を振り返り、今後の展望を考えます。

ゼニタナゴ、頑張れ!

ドブガイ・ゼニタナゴの繁殖実験

ヨシノボリ捕獲作戦

   ゼニタナゴが繁殖するには、ゼニタナゴが卵を産みつけるドブガイが不可欠です。そして、そのドブガイが繁殖するには、ドブガイの幼生が寄生するヨシノボリというハゼ科の魚が必要です(詳しくは前号をご覧ください)。

   そこで、ゼニタナゴを含めた生態系全体を復元するという目標に向け、まずこの地域のヨシノボリを捕まえてきて、ドブガイの繁殖実験を開始することにしました。

   四月、順調に冬を越してきたドブガイのいる実験池に、現地および鴨志田で捕獲した五十匹のヨシノボリを放しました。

ドブガイの繁殖実験

   五月、ドブガイはヨシノボリにブロキジウム幼生を吹き付け、幼生が寄生をします。主にエラやヒレにかぎでくっつき管を差し込んで体液を吸います。何匹も寄生されているヨシノボリはやせ細りました。共生関係ではなく、一方的な寄生で、ヨシノボリにとっては実に迷惑な話です。

   六月、幼生が寄生してから三週間ほど経って、ヨシノボリが体をくねらせて稚貝を点々と泥の上に落としました。

ゼニタナゴの放流

   七月、秋の産卵期間までに池に慣らすため、雄雌二匹のゼニタナゴを試験的に放流しました。様子を見ながら追加放流し、計十二匹となりました。

ゼニタナゴの産卵

   十一月、雌は皆、産卵管を出し、それを引きずって泳ぎ回り、雄は貝の周りを掃除して誘います。産卵のピークに入ると頭を下にして逆立ちしているような雄もいました。驚いたことに、年が明けてからも雌が次々と産卵管を出し、二度目の産卵が行われました。

ドブガイの栄養不足

   一月、ドブガイが二匹死に、一匹にはぎっしりゼニタナゴの幼生が入っていました。この幼生計四十二匹は、共同研究をしている神奈川県水産総合研究所の内水面試験場で人工養殖を行うことになりました。貝の死因ですが、冬場でプランクトンが少なく栄養不足に陥ったものと考えられるため、池に田の土を足したほか、試験場提供の貝の餌を与えてみることにしました。現在、様子を見守っている状況です。

稚魚のための環境を!

稚魚専用の池づくり

   ゼニタナゴの稚魚は、深い池の清水の中ではうまく育たないおそれがあります。水温を上げるため、三月、大きな実験池の下流側に稚魚用の浅い池を掘り、実験池から水をひく工事をしました。会員のボランティア精神に満ちた頑張りで、しっかりした稚魚用の池が完成しました。稚魚が浮上したらすぐにすくって移し、ここで大切に育てる予定です。

放流できる場所を!

竹の炭焼き

   本山池では水質の悪化によってゼニタナゴが生息できなくなってしまっています。ゼニタナゴの生息環境を復元するには、本山池の水を浄化する必要があります。そこで、会では、近年その効能が話題の竹炭で浄化実験を行うことにしました。まず、会長に炭焼きの技術を教えていただき、竹の炭焼きを行いました。竹を切り出し、ノコギリで寸法に切りナタで割って材料を整え、一方でドラム缶をベースにして炭焼きがまを作りました。炭焼きは大成功。焼き続けること一週間、きれいに焼き上がった竹炭が大量にできました。

炭焼き成功

研究所、大学との共同研究

   昨年度から、当会と玉川大学農学部生物学研究室、神奈川県水産総合研究所内水面試験場が共同して研究していくこととなり、本山池については、玉川大学の学生で当会の会員でもある内山さんが水質と魚類の調査を行いました。調査の結果を基礎資料として生かして、本山池での放流につなげていくことになります。

ゼニタナゴ

今後の活動と展望

稚魚の安全確保

   今後の活動としては、まず五月に稚魚が浮上すると予想されますので、その稚魚を、新しく作った専用の実験池で育てます。この稚魚専用の池においては、これまでの実験池よりもさらに細かな配慮をし、慎重に育てていきます。

   これまで年間を通して行ってきた、水温、pH、溶存酸素の測定を継続し環境の変化に注意するほか、発生するアオミドロの除去を常時行います。

   捕食者に対する対策も重要です。絶滅寸前のゼニタナゴは、まだ自然界の厳しい淘汰に委ねるわけにはいきません。まず、池に網でふたをして、シラサギなどに食べられないようにします。ザリガニもゼニタナゴにとっては脅威なので捕獲するのですが、夜行性なので夜に捕獲をします。このほか、池の中で孵化して大きくなってくるヤゴにも油断ができませんし、大きくなったヨシノボリまでがゼニタナゴの敵となるのです。

   実験池の現状に目を向けると、通常、産卵後死ぬことが多いゼニタナゴの成魚たちが、全て冬越しして太りかえり元気に泳ぎ回っています。今年は一回り立派になった親魚たちが産卵するので、来春はますます魚を増やすことができると期待しています。

本山池により近く

   実験の次の段階として、清水を入れた現在の実験池ではなく、本山池の水を浄化した上で入れた、より自然の状態に近い池での増殖実験を行います。使用する池は本山池のすぐ下にある、昔、会長がゼニタナゴを飼育していた手掘りの池です。マイクロバブル(細かい泡による水の浄化装置)と竹の炭を使って本山池から入ってくる水を浄化します。まずはドブガイの増殖実験から始め、うまくいけばゼニタナゴの増殖実験を行います。本山池の状態に近いこの池をゼニタナゴの生息できる場として確保し、本山池や奈良川での復元につなげていきたいと考えています。

   なお、会のゼニタナゴチームの活動は土日の午後二時からです。どうぞご参加ください。

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