カワセミだより

アゲハの子供たち

佐藤 友比古

   毎年、四月の終わりになると、庭にある柑橘類の木から若葉が芽吹き始めます。そして、ちょっと遅れて、アゲハチョウやクロアゲハがこの木に卵を産み付けます。

   卵から孵化したアゲハの幼虫達は、当然のことですが、おいしい若葉から食べ始めます。最初は体長1ミリメートル程だった幼虫も、脱皮を繰り返してだんだん大きくなり、食べる量も増えてきますから、若葉は大きく成長しきらないうちに、アゲハの幼虫たちに食べ尽くされてしまいます。

   後から生まれた幼虫たちは、もう若葉が無くなっているので、最初から古い硬い葉を食べなくてはなりません。また、若葉が全て食べられてしまうので、葉っぱ(彼等の食料)がどんどん減ってゆきます。

   柑橘類は、夏の終わりごろもう一度芽吹きますが、やはり同じ事の繰り返しです。

   数年間、こうした幼虫の行状を見ていましたが、他人事と思えなくなり、心の中に不満が鬱積してきました。

   先に生まれたものだけがおいしい葉を食べることができるなんて、不公平じゃないか。若葉を先に食べちゃうから、食料が減ってゆくんだぞ。

   そこで、ある時からアゲハの幼虫の生活管理を始めたのです。

   庭にいるアゲハの幼虫を全部捕まえて、大きさによって分け、シャーレや広口ビンに閉じ込めました。「これからは、私の与える葉っぱだけを食べなさい。」

   因みに、アゲハの幼虫は蛹になるまで四回脱皮しますが、卵から生まれたばかりの幼虫を1齢、蛹になる直前の幼虫を終齢(5齢)と呼びます。私は1齢を幼稚園生、2齢を小学生、終齢を大学生と呼んでいます。

   私は、彼等を厳しく管理します。例えば、若葉は幼稚園生だけが食べること、高校生と大学生はできるだけ古い葉を食べること、高校生と大学生は小さい子の前日の食べ残しも食べること、などです。

   幼虫たちの世話には、毎朝一時間以上が費やされます。その甲斐があって、幼虫たちの生存率は非常に高く、立派に卒業(羽化)して社会に飛びたって行きます。また、厳しい管理により柑橘の葉は増えはじめ、食糧事情も良くなりました。

   秋になり、みんなが卒業すると、私の仕事も終わりになります。

   ところで、彼等の「学生時代」は幸せだったのかなあ。

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